(一社)日本リモートセンシング学会
会長 松永 恒雄
衛星リモートセンシングの始まりを世界初の気象衛星である米国のTIROSシリーズの運用が始まった1960年代初頭とすると今日までおよそ60年の歴史があることになりますが、私が学会員としての活動を始めた1990年代初頭はその歴史の折り返し地点に相当すると言えるかと思います。60年の歴史の前半が非常に大きな変動、変革の時期であったことは当然ですが、後半の30年間、さらにはここ10年の間にも非常に大きな変化が国内外のリモートセンシング分野において生じました。その変化のいくつかは「前半の30年間」で多くの関係者が感じた衛星リモートセンシングの実用上の問題点、例えば「見通せないデータの継続性」「低い観測頻度」「高額なデータとその処理設備」などを突破しうるものでもありました。データ利用者の多い汎用的な性格の大型衛星については国際協力によるものも含めてそのシリーズ化が進み、データの継続性についてある程度見通しが得られるようになりました。また複数の衛星を同時に運用する衛星コンステレーションも官民双方で普及し、観測の高頻度化も進みました。その背景には衛星やセンサの小型化や民間ロケットによる打ち上げ機会の大幅な増加もあります。データ処理については各種データ解析ツールと衛星データそのものを内包するクラウドが内外で稼働し、シリーズ化された衛星の大量のデータを安価に利用できる環境が実現しました。これにより衛星データ利用に取りかかる際の敷居がだいぶ低くなったように思います。またオープンデータ、オープンサイエンスの潮流と合わせて、AIや機械学習によるデータ処理も広く行われるようになりました。一方、国内に目を向けると2023年のALOS-3の喪失といった残念な出来事もあった一方で、ニュースペースとも呼ばれる民間企業の参入や、そのような新たな活動を支える宇宙戦略基金の創設など、我が国の強みを活かしつつ、新たな展開に向けた活動が加速しています。例えばALOS-3への期待を引き継ぎ、さらに新たな可能性への挑戦を試みる官民連携による光学観測事業なども注目すべき動きです。また衛星以外のプラットフォームからのリモートセンシングも大きく発展しました。特にドローンについては「前半の30年間」ではおおよそ想像がつかなかった長足の進歩を遂げており、今後さらにどのような展開をするのか、まだまだ目を離せません。このように新たな展開が続々と生まれている非常にエキサイティングな状況下で、日本のアカデミアをベースに持つ日本リモートセンシング学会には、日本、アジア、そして世界のリモートセンシングに大きなかつ独自の貢献をすることが内外から強く求められていると感じます。
また現実的な話としてコロナ禍以前の生活にほぼ戻りつつある現在、学術講演会などの学会が主催する大規模集会の開催方法については様々な議論があると承知しています。感染症防止などの社会的要請やリモート勤務の普及などのライフスタイルの変化を受け止めつつ、対面コミュニケーションのメリットをどのように取り戻し、さらに大規模集会の新たな価値をどのように創造するか、またそのためのコストや労力をどのように分け合うか、様々な立場の方々との議論も必要でしょう。さらに現在積極的に活動されている内外の新しいプレーヤーの方々にも当学会の活動にご参加いただき、新たな化学反応を起こすことも求められています。これは単純に会員を増やすというだけではなく、学会活動の質的な変化にもつながるでしょう。
これから2年間、会員の皆様とともに日本リモートセンシング学会に対する内外からの期待に応え、さらに当学会の活動に参加した若い皆さんがこの分野の明るい将来を見通せるような場を作っていけるよう微力ながら努力いたします。正会員の皆様、学生会員の皆様、法人会員の皆様、また諸先輩方におかれましては、今後ともご指導とご支援をいただけると幸いです。